起業家のための完全攻略ガイド:融資を勝ち取る事業計画書の書き方 A to Z

事業計画の立て方
  1. はじめに:単なる書類提出を超えて – 融資担当者との戦略的対話の始まり
  2. 第1部 融資担当者の思考を解読する:融資審査を成功させる4つの柱
    1. 第1の柱:起業家の信頼性(あなたの「過去」)
      1. 経験という最強の武器
      2. 個人の財務的健全性(信用情報)
      3. 定性的評価(経営者の資質)
    2. 第2の柱:事業の実現可能性(あなたの「現在」の計画)
    3. 第3の柱:返済能力(あなたの「未来」)
    4. 第4の柱:コミットメントの証明(あなたの「覚悟」)
      1. 自己資金の決定的な役割
      2. お金以上の意味を持つもの
      3. 表1:融資担当者のコア評価チェックリスト
  3. 第2部 魅力的な事業計画書の解剖学:項目別 完全作成マスタークラス
    1. 1. 創業の動機
    2. 2. 経営者の略歴等
    3. 3. 取扱商品・サービス
    4. 4. 取引先・取引関係等
    5. 5. 従業員
    6. 6. お借入の状況
  4. 第3部 融資担当者の言語:反論の余地なき財務計画の構築
    1. 7. 必要な資金と調達方法
      1. 設備資金の算出
      2. 運転資金の算出
      3. 資金調達計画の構成
      4. 表2:必要な資金の内訳サンプル(小規模カフェの例)
    2. 8. 事業の見通し(月平均)
      1. 売上予測の技術
      2. 売上から利益へ:損益計画(P&L)
      3. 最終テスト:資金繰り表
      4. 表3:売上予測モデル(飲食店の例)
  5. 第4部 提出から承認まで:最終ステージを乗り切る
    1. 提出前の最終チェックリスト
    2. 面談:人間的要素の評価
    3. 審査結果が出た後の対応
  6. 第5部 テンプレートとリソース
    1. 【ダウンロード用】事業計画書(創業計画書)テンプレート(Excel)
    2. 【ダウンロード用】月次資金繰り表テンプレート(Excel)
    3. 主要財務用語集

はじめに:単なる書類提出を超えて – 融資担当者との戦略的対話の始まり

 

多くの起業家にとって、事業計画書は融資を受けるための単なる事務的な手続き、乗り越えるべきハードルと捉えられがちです。しかし、その本質は全く異なります。優れた事業計画書とは、金融機関という事業の重要なパートナー候補に対し、自らのビジョンと事業の確実性を伝えるための、最初のそして最も重要な「戦略的対話」のツールなのです。これは単に空欄を埋める作業ではありません。資本の責任ある管理者としての自身の適格性を証明するプロセスです 。  

融資担当者が事業計画書を読むとき、その根底には常に二つの根源的な問いが存在します。「この起業家を信頼できるか?」そして「投じた資金は確実に回収できるか?」 。この二つの問いに、事業計画書のあらゆる項目が、明確かつ論理的に、そして証拠をもって答えなければなりません。  

本稿は、日本政策金融公庫(以下、公庫)をはじめとする金融機関が実際に用いる審査基準に基づき、起業家が融資審査を突破するための事業計画書作成術を、AからZまで網羅的に解説するものです。本書を読み進めることで、単なる書類作成のテクニックだけでなく、融資担当者の視点を理解し、彼らが求める「信頼」と「返済能力の証明」をいかに構築するかという、より高次元の戦略を身につけることができるでしょう。


 

第1部 融資担当者の思考を解読する:融資審査を成功させる4つの柱

 

事業計画書の各項目を効果的に記述するためには、まずその背後にある「なぜ」を理解することが不可欠です。融資担当者が何を評価し、何を懸念するのか。その評価の枠組みを知ることが、的確なアピールにつながる第一歩となります。融資審査は、大きく分けて以下の4つの柱で構成されています。

 

第1の柱:起業家の信頼性(あなたの「過去」)

 

新規事業には実績がありません。そのため、融資担当者が事業の成功可能性を判断する上で最も重視するのが、起業家自身の「過去」です。あなたの経歴、財務状況、そして人間性そのものが、事業の信頼性を担保する最大の資産となります。

 

経験という最強の武器

 

金融機関は、起業家がこれから始める事業と同じ、あるいは関連性の高い分野で豊富な実務経験を持っていることを極めて高く評価します 。これは、業界知識、専門スキル、そして何より人脈や取引先ネットワークが、事業の失敗リスクを大幅に軽減すると経験則から知っているためです 。例えば、飲食店の店長経験者が作成した売上予測は、未経験者のそれとは比較にならないほどの説得力を持ちます 。事業計画書では、単に職歴を羅列するのではなく、それぞれの経験で得たスキルや実績が、いかにしてこれから始める事業のリスクを低減し、成功確率を高めるかに直結するかを具体的に示す必要があります。  

 

個人の財務的健全性(信用情報)

 

これは、融資審査における絶対的な最低条件であり、交渉の余地がない「関門」です。公共料金、税金、クレジットカード、各種ローンの支払遅延や滞納といった金融事故の履歴は、個人の信用情報機関に記録されています 。これらの記録は、起業家の信頼性や責任感を測る直接的な指標と見なされます。支払いに対する誠実さは、将来の借入金返済に対する誠実さと同義であると判断されるため、クリーンな信用情報は必須条件です。  

 

定性的評価(経営者の資質)

 

書類だけでは測れない部分、つまり経営者としての資質は、面談を通じて厳しく評価されます。事業に対する熱意、誠実さ、計数観念(数字に対する強さ)、謙虚さ、そして何よりも責任感といった人間性が問われます 。事業計画書は、こうした信頼に足る人物像を反映したものでなければなりません。計画の内容と面談での言動に一貫性があることが、信頼を勝ち取る鍵となります。  

融資担当者は、本質的にリスクを回避したいと考えています。実績のない新規事業は、その存在自体がリスクの塊です。そのため、彼らが唯一頼れるデータソースは、起業家自身の過去の経歴と行動です。優れた事業計画書は、単に事実を並べるのではなく、それらを一つの説得力ある物語へと昇華させます。つまり、「過去の経験(第1の柱)」が「未来の計画(第3の柱)」の実現可能性を直接的に裏付けるという論理構造を構築するのです。「イタリアンレストランで10年間シェフとして働き、うち3年間は料理長として原価管理とメニュー開発を統括した**経験(過去)があるからこそ、私の計画するメニュー構成と原価率30%という設定、そしてそれに基づく売上・利益予測(未来)**は、現実的かつ達成可能である」といったように、過去と未来を繋ぐ因果関係を明確に示すことで、単なる資格のリストが、事業の成功を予見させる強力な論拠へと変わるのです。

 

第2の柱:事業の実現可能性(あなたの「現在」の計画)

 

この柱は、ビジネスモデルそのものの妥当性に焦点を当てます。あなたのアイデアが、単なる思いつきではなく、市場で通用し、利益を生み出すことができる商業的に成立した事業であることを証明する必要があります。

計画書には、客観的なデータに基づいた市場分析、競合の強み・弱みの把握、ターゲット顧客の明確な定義、そして具体的で実行可能な販売・マーケティング戦略が盛り込まれている必要があります 。なぜ顧客は競合ではなくあなたの商品・サービスを選ぶのか、その独自の価値提案(Unique Selling Proposition)を明確にすることが求められます。  

 

第3の柱:返済能力(あなたの「未来」)

 

ここが、数字が雄弁に語るべき領域です。金融機関は、事業が生み出すキャッシュフローが、事業運営コストを賄い、かつ、新たな借入金を返済するのに十分であるかを、提出された財務予測から厳密に判断します 。  

ここで最も重要なのは、「根拠のある予測」であることです。希望的観測や曖昧な数字は、計画全体の信憑性を失墜させる最大の要因です 。売上予測から経費、利益に至るまで、すべての数字がどのようにして算出されたのか、その論理的なプロセスを明示する必要があります。  

 

第4の柱:コミットメントの証明(あなたの「覚悟」)

 

 

自己資金の決定的な役割

 

自己資金は、起業家の事業に対する本気度と覚悟を示す最も強力なシグナルです。公庫の「新創業融資制度」では、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が要件とされていますが 、実際には総額の3分の1から2分の1程度を用意することが強く推奨されています 。  

 

お金以上の意味を持つもの

 

融資担当者は、自己資金の金額だけでなく、その「出所」と「形成過程」を重視します。最も評価されるのは、給与などから長期間にわたってコツコツと普通預金口座に貯蓄された履歴が明確に通帳で確認できるケースです 。これは、起業に向けた計画性と自己管理能力の証明となるからです。一方で、融資申込の直前に親族などから振り込まれた多額の資金は「見せ金」と疑われ、評価されない可能性があります 。  

融資担当者が最も恐れるのは、事業が困難に直面した際に起業家が諦めてしまうことです。自己資金は、そのリスクに対する心理的・財務的な「錨(いかり)」の役割を果たします。起業家が自らの資産を相当額投じることで、その事業に「skin in the game(自分自身もリスクを負っている状態)」であることを示すのです。これにより、起業家と金融機関の間にリスク共有の関係が生まれます 。融資担当者はこう考えます。「この起業家は、これだけの自己資金をリスクに晒しているのだから、簡単に事業を投げ出すはずがない。この事業を成功させたいという思いは、我々が融資を回収したいという思いと同じくらい強いだろう」。自己資金が示すのは、単なる財務的な余裕ではなく、事業への真剣さ、犠牲、そして金融機関との「運命共同体」としての覚悟なのです。  

 

表1:融資担当者のコア評価チェックリスト

 

このチェックリストは、融資担当者の視点を簡潔にまとめたものです。提出前に自己評価を行うことで、計画書の強みと弱みを客観的に把握することができます。

カテゴリ 評価項目 達成目標/確認事項 関連ソース
第1の柱:起業家 業界経験 関連業界での実務経験年数、役職、具体的な実績を明記
個人信用情報 公共料金、税金、ローン等の支払遅延・滞納がないことを確認
自己資金の形成過程 通帳で確認できる、計画的で継続的な貯蓄履歴があるか
第2の柱:事業計画 市場・競合分析 客観的データに基づき、自社の強みと差別化要因が明確か
販売戦略 ターゲット顧客にリーチするための具体的かつ実行可能な計画があるか
第3の柱:財務計画 自己資金比率 創業資金総額の10%以上、理想は30%以上を確保
各種予測の根拠 売上、経費、必要資金の全てに見積書や計算根拠が添付されているか
返済計画 事業が生み出すキャッシュフローで無理なく返済可能か
第4の柱:面談 一貫性 事業計画書の内容と、面談での口頭説明に矛盾がないか
情熱と専門性 事業への熱意と、数字に対する深い理解を示せるか

 


 

第2部 魅力的な事業計画書の解剖学:項目別 完全作成マスタークラス

 

このセクションでは、公庫が公式に提供している「創業計画書」のテンプレートをベースに 、各項目をどのように記述すれば融資担当者に響くのかを、具体的な書き方や事例を交えながら徹底的に解説します。  

 

1. 創業の動機

 

目的: 個人的な情熱と専門的な経験を、具体的な市場機会に結びつけること。「社長になりたいから」といった漠然とした理由や、「社会を変えたい」といった壮大すぎる目標は避け、具体的で地に足のついた動機を記述します 。  

構成のヒント: 「きっかけ(原体験)」→「準備(経験の蓄積)」→「機会(なぜ今なのか)」という物語構造で記述すると、説得力が増します 。  

記述例(カフェ開業): 「12年間、バリスタとして勤務し、うち5年間は店長として店舗運営全般を経験してまいりました**(準備)。その中で、地域住民の方々が気軽に立ち寄れ、高品質なスペシャルティコーヒーを日常的に楽しめる場所が、この〇〇地区に不足していると強く感じるようになりました(機会)。自身のこれまでの経験を活かし、地域コミュニティの新たな拠点となるようなカフェを創りたいという長年の夢を実現するため(きっかけ)**、この度創業を決意いたしました。」  

 

2. 経営者の略歴等

 

目的: あなたの職務経歴が、この事業を運営するための直接的な資格証明であることを示すこと。記載するすべての経歴が、あなたの能力を裏付ける物語の一部となるように構成します。

ベストプラクティス: 実績は可能な限り数値で示します。「営業チームを管理した」ではなく、「7名の営業チームを率い、担当地域の売上を前年比20%向上させた」のように記述することで、客観性と説得力が格段に高まります 。もし直接的な業界経験が不足している場合でも、マネジメント、財務、マーケティングといった、事業運営に不可欠な移転可能なスキルを具体的にアピールすることが重要です 。  

 

3. 取扱商品・サービス

 

**目的:**何を、いくらで販売し、なぜ顧客が競合他社ではなくあなたの店を選ぶのかを明確に定義すること。

内容の分解:

  • 取扱商品・サービス: 主力となる商品やサービスを、価格帯や想定される売上構成比(シェア%)と共にリストアップします 。  
  • セールスポイント(USP): あなたの商品・サービスが他と何が違い、何が優れているのかを具体的に記述します。品質、価格、独自技術、接客、立地など、差別化の源泉を明確にしましょう 。  
  • 競合状況: 主要な直接競合(同業者)と間接競合(代替品を提供する業者)を2~3社挙げ、それぞれの強みと弱みを分析します。その上で、自社が市場のどのポジションを狙い、どのように優位性を築くのかを論理的に説明します。これは、あなたの市場認識の深さを示す重要な項目です 。  

 

4. 取引先・取引関係等

 

目的: 顧客にリーチするための具体的な計画と、安定した供給網(サプライチェーン)を持っていることを示すこと。

  • 販売先(ターゲット顧客): 「女性」といった曖昧な表現ではなく、「丸の内エリアに勤務する30代から50代の働く女性で、平日のランチタイム利用を主に見込む」のように、ターゲット層を具体的に定義します 。  
  • 販売戦略: ターゲットにどのようにアプローチするのか、具体的で実行可能なアクションプランを記述します。例:「Instagramでの週3回の情報発信、店舗周辺半径1km圏内へのチラシ5,000部のポスティング、近隣オフィスへのランチデリバリーサービスの提案」など 。  
  • 仕入先: 主要な仕入先をリストアップします。前職からの繋がりなど、既に良好な関係が構築されている仕入先があれば、それは事業リスクを低減する大きな強みとなるため、必ず明記しましょう 。また、「月末締め翌月末払い」といった支払条件も、資金繰り計画に不可欠な情報であるため、具体的に記載します。  

 

5. 従業員

 

売上計画や営業時間と整合性のとれた人員計画を概説します。正社員、アルバイトの人数やそれぞれの役割を簡潔に記述します。

 

6. お借入の状況

 

目的: 徹底した透明性を示し、融資担当者との信頼関係を構築すること。

黄金律:すべてを正直に開示する。 金融機関は、融資審査の過程で必ず信用情報機関に照会をかけます 。住宅ローンや自動車ローン、カードローンといった既存の個人的な借入を隠蔽する行為は、発覚した時点で信頼を完全に失い、融資は絶望的になります。すべての借入状況を正確に記載してください 。  

起業家はしばしば、個人的な負債を開示することが融資審査に不利に働くと考えがちですが、現実はその逆です。融資担当者は、多くの人が住宅ローンなどの何らかの負債を抱えていることを当然のこととして理解しています。彼らが本当に恐れるのは「不誠実さ」です。すべての負債を自発的かつ正確に申告する行為は、「私は透明性が高く、隠し事は何もない、信頼に足るパートナーです」という強力なメッセージを送ります。この正直さという行為そのものが、完璧にクリーンな財務状況よりも価値を持つ場合があるのです。これにより、既存の負債は弱みではなく、責任を持って管理されている個人の財務プロファイルの一部として、前向きに評価されることになります。


 

第3部 融資担当者の言語:反論の余地なき財務計画の構築

 

事業計画書の中で最も厳しく、そして客観的に評価されるのがこの財務計画です。ここに記載されるすべての数字は、論理的で、防御可能で、かつ計画書全体と整合性が取れていなければなりません。

 

7. 必要な資金と調達方法

 

目的: 創業に必要なコストを項目別に明確化し、それをどのように賄うかのバランスの取れた計画を提示すること。「必要な資金」の合計額と、「調達の方法」の合計額は、1円単位で完全に一致させる必要があります 。  

 

設備資金の算出

 

  • 内容: 機械設備、車両、PC、店舗の内外装工事費、物件の敷金・保証金など、事業運営に必要な有形・無形の資産取得費用が含まれます 。  
  • 証拠の提出は必須: 金額の大きい設備については、供給業者から発行された正式な「見積書」の提出が原則として必須です。これは、あなたが要求している資金額が水増しされておらず、実際の取引に基づいていることを証明する、交渉の余地のない証拠となります 。これにより、融資担当者は資金が事業に無関係な私的利用などに流用されるリスクがないことを確認します 。  

 

運転資金の算出

 

  • 内容: 事業が安定的なキャッシュフローを生み出すまでの間、日々の運営を支えるために必要な現金です。具体的には、数ヶ月分の家賃、人件費、原材料の仕入費用、広告宣伝費などが含まれます。
  • 経験則: 最低でも3ヶ月分、できれば6ヶ月分の運転資金を計画に盛り込むことが推奨されます 。公庫の調査によれば、新規事業が黒字化するまでの平均期間は約7ヶ月とされており、余裕を持った計画が現実的であると評価されます 。  
  • 具体的な計算方法: 1ヶ月あたりに発生する固定費(家賃、人件費、水道光熱費など)と変動費(仕入費など)をリストアップし、その合計額に必要な月数(例:3ヶ月)を乗じることで、客観的な根拠のある運転資金額を算出します 。  

 

資金調達計画の構成

 

  • 調達源泉: 自己資金、日本政策金融公庫からの借入、親族からの借入など、資金の出所を明記します。これらの合計額が、前述の「必要な資金」の合計額と完全に一致するようにします。

 

表2:必要な資金の内訳サンプル(小規模カフェの例)

 

この表は、創業予算をどのように分類し、正当化するかを示す具体的なテンプレートです。

カテゴリ 項目 算出根拠/見積先 金額(円)
設備資金 店舗内外装工事費 ABC建設株式会社 見積書 3,000,000
エスプレッソマシン 株式会社コーヒーテック 見積書 800,000
厨房設備一式 キッチンワールド株式会社 見積書 1,200,000
家具(テーブル・椅子) IKEAウェブサイト 印刷物 500,000
POSレジ・PC PCデポ 見積書 300,000
物件取得費(敷金・保証金) 賃貸借契約書(家賃6ヶ月分) 1,200,000
運転資金 家賃(3ヶ月分) @200,000円/月 600,000
人件費(3ヶ月分) 従業員1名 @250,000円/月 750,000
開業時仕入費 各仕入先からの概算 400,000
開業前広告宣伝費 チラシ・広告業者 見積 250,000
必要な資金 合計 9,000,000
調達の方法 自己資金 3,000,000
日本政策金融公庫からの借入 6,000,000
調達の方法 合計 9,000,000

 

 

8. 事業の見通し(月平均)

 

目的: 創業後少なくとも1年間の、月次の売上、経費、利益を現実的に予測すること。このセクションは、計画書の他の部分で提示した前提条件(ターゲット顧客、価格設定、販売戦略など)と完全に整合性が取れていなければなりません。

 

売上予測の技術

 

  • ボトムアップ方式が王道: 「市場シェアの1%を獲得する」といったトップダウン式の曖昧な予測は、融資担当者から信頼されません。売上予測は、現場の具体的な運営指標から一つひとつ積み上げて算出する「ボトムアップ方式」で作成する必要があります 。  
  • 業種別計算式例:
    • 飲食店: (ランチ客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数) + (ディナー客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数)  
    • 小売店: (店舗前通行量 × 入店率 × 購入率 × 平均購入単価) × 営業日数  
    • コンサルティング業: (コンサルタント数 × 月間稼働時間 × 時間単価) × 稼働率  
  • 「算出根拠」の記載は必須: 予測を構成するすべての数字(客単価、回転数など)について、なぜその数字を設定したのか、その根拠を必ず説明します。ここで、あなたの業界経験が最も価値のある資産となります 。  

 

売上から利益へ:損益計画(P&L)

 

  • 計算プロセス: まず 売上高 - 売上原価 = 売上総利益 を計算します。売上原価は、飲食業であれば売上の30~40%といった業界平均値を参考に設定します 。  
  • 次に、売上総利益 - 経費(販売費及び一般管理費) = 営業利益 を計算します。経費には、人件費、家賃、水道光熱費、広告宣伝費などが含まれます。

 

最終テスト:資金繰り表

 

損益計算書上では利益が出ていても、現金の入金タイミングのズレによって支払いができなくなり倒産に至るケース、いわゆる「黒字倒産」は、スタートアップにとって最大の脅威の一つです 。例えば、1月に商品を販売して会計上は利益が計上されても、その代金が実際に入金されるのが3月というケースは珍しくありません。しかし、家賃や給与は1月、2月にも現金で支払う必要があります。この現金の出入りを時系列で管理するのが「資金繰り表」です。これは会計上の利益ではなく、実際の現金の動きを追跡するものであり、企業の生存可能性を月ごとに示す、スタートアップにとって最も重要な財務書類です。融資担当者はこの事実を熟知しているため、必須書類ではなくとも、よく練られた資金繰り表を自主的に提出することは、高い財務リテラシーの証明となり、信頼性を劇的に向上させます 。  

公庫のウェブサイトなどで提供されているテンプレートを活用し 、シンプルな月次資金繰り予測表を作成する手順を理解することが重要です。目標は、「月末現金残高」が常にプラスを維持することを示すことです 。  

 

表3:売上予測モデル(飲食店の例)

 

ボトムアップ方式による、具体的で防御可能な売上予測の構築方法をステップ・バイ・ステップで示します。

指標 平日(22日) 週末(8日) 月間合計 算出根拠
ランチ
客単価 1,200円 1,500円 計画メニューと近隣競合店の価格調査に基づく
席数 20席 20席 店舗の物理的レイアウト
回転数 1.5回転 2.0回転 繁盛店の業界標準を参考に設定
日次売上 36,000円 60,000円 (客単価 × 席数 × 回転数)
ランチ売上高 792,000円 480,000円 1,272,000円
ディナー
客単価 4,000円 5,000円
席数 20席 20席
回転数 0.8回転 1.2回転 開業当初の保守的な予測
日次売上 64,000円 120,000円
ディナー売上高 1,408,000円 960,000円 2,368,000円
月間売上高 合計 3,640,000円

 

第4部 提出から承認まで:最終ステージを乗り切る

 

 

提出前の最終チェックリスト

 

提出ボタンを押す前に、一度立ち止まって最終確認を行いましょう。よくある失敗は、少しの注意で防ぐことができます。

  • 数字の整合性: 各セクション間の数字に矛盾はありませんか?(例:「必要な資金」の合計と「事業の見通し」の経費項目は一致しているか)
  • 添付書類の漏れ: 設備資金に対する見積書はすべて揃っていますか?
  • 合計値の検算: 表計算の合計は合っていますか?
  • 非現実的な仮定: 売上予測や経費の見積もりが楽観的すぎませんか?  

 

面談:人間的要素の評価

 

面談は、融資担当者が書類の背後にいる「あなた」という人間を評価する場です。準備が成否を分けます。

  • 徹底的な準備: 事業計画書の内容は、隅々まで自分の言葉で説明できなければなりません。特に、自分で作成したはずの数字の根拠を説明できないのは致命的です 。  
  • 想定問答集: 以下のような頻出質問への回答を準備しておきましょう。
    • 「なぜこの事業を始めようと思ったのですか?」(創業の動機)
    • 「自己資金はどのように貯めましたか?」(計画性の証明)
    • 「この売上予測の具体的な根拠は何ですか?」(計数観念の確認)
    • 「もし売上が計画を下回った場合、どのような対策を講じますか?」(リスク管理能力)  
  • 態度と身だしなみ: プロフェッショナリズムが重要です。清潔感のある服装(スーツが無難ですが、業種によっては必須ではありません)、時間厳守、誠実な態度、そして前向きで自信のある姿勢を心がけましょう 。  

 

審査結果が出た後の対応

 

  • 承認された場合: 契約内容、金利、返済スケジュールなどの融資条件を十分に理解し、契約を締結します。融資実行後は、計画通りに資金を使用し、事業運営に邁進します。
  • 否決された場合: 感情的になったり、反論したりしてはいけません。丁重に、改善すべき点についてフィードバックを求めましょう。一度の否決が終わりではありません。指摘された弱点(自己資金の増額、事業経験の追加、計画の具体性の向上など)を克服し、再申請することで、成功への道は開かれています 。  

 

第5部 テンプレートとリソース

 

起業家の皆様が、本稿で得た知識をすぐに行動に移せるよう、以下にリンクを用意しました。これらを活用することで、事業計画書を作成することが可能になります。

 

【ダウンロード用】事業計画書(創業計画書)テンプレート(Excel)

 

【ダウンロード用】月次資金繰り表テンプレート(Excel)

 

主要財務用語集

 

事業計画書や金融機関との対話で頻出する主要な財務用語を、初心者にも分かりやすく解説します。

  • 設備資金: 事業を始めるために必要な、長期間使用する設備(内外装、機械、車両など)や権利(敷金など)を取得するための資金。
  • 運転資金: 事業が軌道に乗るまでの間、日々の運営(仕入、人件費、家賃など)に必要な資金。
  • 売上原価(原価): 売れた商品やサービスを提供するために直接かかった費用(材料費など)。
  • 損益分岐点: 売上高と費用が等しくなり、利益がゼロになる売上高のこと。これを超えると黒字、下回ると赤字になる。
  • 自己資本比率: 総資本(負債+純資産)に占める純資産(自己資本)の割合。企業の財務的な安定性を示す指標。

本稿が、大志を抱くすべての起業家にとって、資金調達という最初の大きな壁を乗り越え、夢を実現するための一助となることを心から願っています。

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